2014年12月6日土曜日

銅付加IUDによる緊急避妊

緊急避妊についての第一人者であるJ.Trussellらによる緊急避妊レビュー2014年8月版から、銅付加IUDによる緊急避妊についての記述を翻訳してみました。

銅付加IUD

着床は排卵の6-12日後に生じます。それゆえ、妊娠を防ぐために排卵の5日後まで銅付加IUDは挿入可能です。すなわち、排卵日の3日前に無防備な性交渉がなされたのなら、性交渉の8日後までに挿入されれば、IUDは妊娠を防止するでしょう。しかしながら、排卵日の決定は困難なので、プロトコルの多くは無防備な性交渉後5日までの挿入を推奨しています。最新のWHOガイドラインは(訳註1)、月経周期の12日目までは何の制約もなしに、そして妊娠していないことが確実であればいつの時点でも、IUDの挿入を許容しています。挿入されたIUDは、通常の避妊法として12年間まで効力を発揮させることができます(訳註2)。しかし、IUDは必ずしも全ての女性に理想的ではありません。未治療の性感染症を有している女性は、IUDが適していません。なぜなら、IUDの挿入は骨盤内感染症を引き起こす可能性があり、治療しなければ不妊の原因となります。性感染症の可能性のない女性は、IUD挿入後の骨盤内感染症リスクはほとんどありませんし、未経産女性の銅付加IUDの使用は卵管不妊リスクの増加と関係しません(クラミジア感染があるとしても)。

効果

1976年にこの方法が紹介されて以来、文献上、性交後に銅付加IUD挿入を行った7000例以上が報告されています。失敗はわずか10例が知られているだけであり、この方法の妊娠率は0.1%です。レボノルゲストレル放出IUD(訳註3)を緊急避妊に使用する効果については研究されておらず、推奨されません。

(訳註1)特に緊急避妊としての銅付加IUDについてのガイドラインではない。
(訳註2)日本で認可されているノバT380の有効期限は5年。
(訳註3)日本ではミレーナが認可されている。

http://ec.princeton.edu/questions/ec-review.pdf
 

銅付加IUDによる緊急避妊のメリット


銅付加IUDによる緊急避妊は、緊急避妊薬ノルレボによる緊急避妊より明らかに効果が高いといえます。
ほぼ100%に近い避妊率と言ってもよいでしょう。
しかも、5日までの挿入であれば、挿入までの時間と失敗率の間に関係はありません。
最近は7日まで挿入可とする外国文献も多くなっています。
挿入時に出費は多くなりますが、5年間の避妊コストとして考えれば、
むしろ割安な避妊法です。
未経産婦では挿入に困難はありますが、挿入できないわけではありません。

銅付加IUDによる緊急避妊が主流とならない理由


上に書いたように、銅付加IUDによる緊急避妊にはメリットがあります。
ほぼ完璧に近い避妊効果が得られます。
しかし、銅付加IUDによる緊急避妊が、緊急避妊の主流となっている国はありません。
それには大きな理由があります。
通常の銅付加IUD挿入に際してはあらかじめSTI検査を行い、
また予防的に抗生物質の投与を行います。
銅付加IUDによる緊急避妊では万全の態勢が取りにくいという難点があります。
特にパートナー男性のHIV検査は必須です。
HIVウイルスは抗生物質で予防できません。
男性がキャリアの場合、緊急避妊を受ける女性の検査は無意味です。
しかも、HIVウイルスは感染力の弱いウイルスですが、
IUD挿入時の傷は感染を容易にしてしまいます。
STI検査が普及している欧米でも、
感染リスクを考慮し銅付加IUDによる緊急避妊は普及していません。

日本の危うい状況


避妊ピルは本来安全性の非常に高い薬です。
しかし、避妊ピルの普及を抑える政策が取られたために、
避妊ピルは本来の用途ではないライフデザインドラッグとして宣伝されました。
そのため避妊ピルは諸外国では若年者の避妊法であるのに、
日本では年齢の高い多くの女性がピルを服用しました。
その結果、ピル史上最悪の血栓症副作用被害が生じました。

今また、緊急避妊薬ノルレボの普及を抑える政策が取られています。
ノルレボが銅付加IUDに匹敵する避妊効果を発揮するのは、
より早い時間に服用した場合のみです。
ところが現在の日本では、無防備な性交渉後の早い時間にノルレボを服用するのが困難です。
これではノルレボが銅付加IUDに対抗するのは無理です。
見方によれば、銅付加IUDによる緊急避妊を誘導しているようなものです。
ノルレボの市販薬化を揶揄する産婦人科医の中には、
銅付加IUDという手もあるから市販薬化は必要ないとの意見もあるようです。
それはとても危うい状況を示唆しています。
日本は欧米と比べてSTI検査が格段に普及していない国です。
その日本で、銅付加IUDによる緊急避妊が安易に行われると、
感染症(特にHIV)を引き起こしかねません。
歪んだピルや緊急避妊薬政策は、かえって重大な問題を生じさせます。
だから、一刻も早いノルレボのアクセス改善が必要なのです。

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