2015年5月28日木曜日

韓国の緊急避妊薬事情

韓国で緊急避妊薬が認可されたのは、日本より10年も前の2001年でした。
2001年当時は、多くの国で緊急避妊薬はまだ処方箋薬でした。
韓国でも処方箋薬として認可されました。
その後、各国は次々と市販薬化していきますが、
韓国は処方箋薬のままでした。
韓国当局は緊急避妊薬を市販薬化する方針を打ち出しました。
その直後の韓国の女性向けインターネット新聞"イルダ"の記事を紹介します。
なお、本稿執筆時点で、韓国はまだ緊急避妊薬の市販化が実現していません。
(通常ピルは処方箋なしの市販薬となっています。)

元記事=韓国の女性向けインターネット新聞"イルダ"の記事

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緊急避妊薬【服薬時期】逃さないことがカギ

緊急避妊薬の市販一般医薬品転換、副作用論議


食品医薬品安全庁が緊急避妊薬(事後避妊薬)を市販一般用医薬品に転換するという方針を発表し(※訳註1)、これに対する賛否論争が起きている。

女性団体は「望まない妊娠」を避けるために、緊急避妊薬を病院ではなく薬局で購入できるという点について、歓迎の声を上げている。
しかし、利権がらみの医師会とならんで、一部の宗教団体と中絶反対運動団体などでは、「実質的に中絶」、「性の乱れ」などの理由を挙げて反対している。


“避妊の失敗”よりもっと大きい副作用はない


食品医薬品安全庁は、緊急避妊薬の市販一般医薬品転換理由について、「1回服用」であり、「通常避妊剤(事前避妊薬)で問題になる血栓症などの副作用がほとんど現れない医薬品」という点を勘案したと説明した。
また「アメリカ、英国、フランス、スイス、カナダで市販一般医薬品に採用」されているという事実も考慮したと説明した。
緊急避妊薬が「中絶薬」であるという主張については、「2001年の許可当時提出された医療·法律の専門家の医学·法律的判断によると、中絶薬ではない」と一蹴した。


医師会は緊急避妊薬が市販一般医薬品に分類される場合に乱用が発生する懸念と、副作用の不正出血を生理と誤認して、望まない妊娠をする可能性、それによる堕胎率の増加、避妊に対する安易な対処などの影響を強調している。
FDAの臨床試験結果によれば、緊急避妊薬の副作用としては、主に月経過多が30.9%で最も多く、悪心/嘔吐、腹痛、疲労などの順で発見されている。

しかし緊急避妊薬の市販一般医薬品転換を主張する側では、緊急避妊薬の最も大きい副作用は“避妊の失敗”という点を強調する。

事後避妊薬は高濃度のホルモンを利用して子宮壁を脱落させて受精卵が着床するのを防止するようにすることであり(※訳註2)、性交後72時間にできるだけ早く、また、月経周期にきっちり1回だけ服用することが原則だ。 この原則にしたがって服用しない場合、効果は急激に低下する(※訳註3)。
避妊成功率をより高めるためには、性交後12時間内の服用が推奨されている。
したがって服薬時期を逃さないことがカギで、このために市販一般医薬品に切り替えて、購入を簡単にすることが正しいという主張だ。


不正乱用問題…安全装置で解決する問題


大韓薬剤師会は、性交渉時には排卵の有無を診察を通じて確認できないので、事後避妊薬に対する医師の診療は必ずしも必要ないという立場だ。
また、消化器障害(吐き気・嘔吐など)、頭痛、めまい、不正出血などの副作用も、通常48時間以内に消えるので、大きな問題になることはないと見ている(※訳註4)。

暮らし・医療生協の家庭医学科の医師チュ・ヘインさんは、「肝臓や腎臓機能が著しく低下した状態など健康上異常がある場合を除き、一般成人女性ならば服薬方法などに対して十分に教育の上、一般医薬品に切り替えることは大きな問題にならない」という意見を明らかにした。

不正乱用の問題も、(処方箋薬であっても) 基本的な対処が不可能な状況だ。
チュ・ヘインさんは、「緊急避妊薬が非給与薬であっても、それぞれ他の医院いろいろな所で何度も処方を受けたとしても、これを把握できる方法がない。」と指摘した(※訳註5)。
また、薬剤師会の報告によれば、現在の緊急避妊薬が医師処方を経なければならないにも関わらず、女性でない男性が代わりに処方受けたり、住民番号が不明な処方をするなどの便法が行われているという。


海外事例を見れば、多くの国では緊急避妊薬を処方箋なしで購入できるように規定している。
OECD加盟国のうち数ヶ国を除いては、ほとんどのヨーロッパ諸国と北米諸国で緊急避妊薬を市販一般医薬品に分類している。

これらの国は緊急避妊薬についての情報を提供して、不正乱用を防止できる安全装置を置いている。
薬剤師との相談後に購入できるように薬剤師の薬棚に配置しなければならない医薬品に指定したり、カナダのいくつかの州の場合、薬剤師が購買者に緊急避妊薬に関する質問用紙を必ず受けるように記録を義務化するようにした(※訳註6)。

そして、関連情報が不足した十代女性の健康を保護するために、
一部の国では16歳未満、あるいは18歳未満は、両親の同意を受けたり、医師の処方があって購入できるように制度的装置を用意した(※訳註7)。 医師との相談を通して、性教育を提供できるようにしたものである。


**以上翻訳*********************************

訳註1、2012年6月7日。
訳註2、排卵の抑制が主たる機序と考えられている。
訳註3、参照服用が24時間遅れる毎に妊娠確率は3倍(市販薬化が必要な理由その1)
訳註4、ノルレボタイプの緊急避妊薬では、吐き気・嘔吐などの副作用も大幅に経験されている。参照 副作用が心配(反対論/慎重論について)
訳註5、日本では診察室で服用させるなど徹底した管理策が採られている。
訳註6、制限は撤廃されつつある。
訳註7、産婦人科学会、小児科学会、女性団体の撤廃運動で、制限は解消されている。

韓国で緊急避妊薬が市販薬化されるのは時間の問題か


韓国ではまだ緊急避妊薬の市販薬化は実現していません。
しかし、その実現は時間の問題でしょう。
政府当局は、明確に緊急避妊薬の市販薬化に舵を切っています。
薬剤師会も歓迎しています。
医師の中にも市販薬化を支持する意見が数多く存在します。
そして、女性達もそれを支持しています。
上に見たように、市販薬化を支持する言説が多くの人々の目につくようになっています。
医師会の反対も、強硬とは言えません。
通常ピルに対する助成を求めるなど、「条件闘争」に傾いています。
韓国と比べると、日本の状況はまだまだです。
政府当局は、緊急避妊の普及さえ妨害する姿勢です。
当局の意を受けて、産婦人科学会は「適正使用」指針を作成しています。
平気でデマも流します。
もう一つのノルレボ物語(8)乱用幻想のプロパガンダで指摘したように、
デマを真に受けている善良な医師もいます。
この日本の状況を変えることができるのは、
私達の声だと思います。

日本と韓国の違い(2015.6.4追記)


日本と韓国は緊急避妊薬の入手に病院受診が必要な点で共通しています。
しかし、日本と韓国にはいくつかの違いがあります。
まず、韓国では第3世代の緊急避妊薬エラワン(ella-ONE)が認可されています。
緊急避妊薬は、ヤッペ法処方のプリベンが第1世代で、ノルレボなどが第2世代、エラワンが第3世代です。
ノルレボが主として排卵抑制作用で避妊効果を持つのに対して、
エラワンは着床阻止作用で避妊効果を持ちます。
エラワンの優位点は性交渉から5日目まで高い避妊効果が持続することです。
時間経過とともに避妊効果が低下するノルレボが間に合わなくても、
エラワンの利用が可能になっています。
第2の相違点は、価格統制の有無です。
韓国は緊急避妊薬の価格統制が行われていない普通の国です。
ノルレボの卸価格は4300ウォン(481円)、エラワンの卸価格は5000ウォン(561円)です(参照 dailypharm.com英語ページ)。
日本の1万円近い病院納入価格は、緊急避妊の普及を阻止するための政策価格です。
韓国では、卸価格500円弱のノルレボの消費者価格は3000円程度です。
1000円台で販売されている例もあります。
第3の相違点は、韓国では病院の処方が緩やかです。
日本では緊急避妊の普及阻止政策に産婦人科病院が組み込まれています。
ほとんどが院内処方で、診察室で服用させる厳密管理まで行われています。
一方、韓国では緊急避妊薬は処方箋薬局で普通に扱われています。
近くの病院で処方箋を書いてもらうことができます。
価格も比較的安いので、万一のために事前に準備している女性もいます。
日本と韓国は緊急避妊薬の入手に病院受診が必要な数少ない国ですが、
実態には格段の差があります。


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